波床 正敏

スペインでは標準軌の高速新線の開通にあわせて1992年にAVEが運行開始され，在来線改良や広軌在来線と標準軌新線の直通列車なども併用しながら，年間約125kmのペースで高速新線建設が続けられてきた．本研究では，このような路線整備の影響を分析するため，1963年以降概ね10年ごとに2015年までの6年次について，主要都市間の各種所要時間指標を計測し，その特徴を考察した．その結果，特に1985年以降は運行頻度や乗り継ぎ利便性向上にやや課題を残しながらも，乗車時間に加えて待ち時間や運行頻度を考慮した総合的な利便性の面で国内主要都市間の多くの区間で利便性向上を果たしてきたことがわかった．これはTGV主体のフランスと異なる結果であり，その差は年間の建設距離が大幅に多いことが原因と考えられる．

欧州のLRTはトランジットモールでは低速走行，市街地を抜けると高速走行できると紹介されるが，実際にどのような走行環境の時にどのような速度で運転されているのかは明確ではない．昨年度は，日本の路面電車の走行状態について調査を実施したが，本研究では欧州のLRTの走行速度をGPSを用いて調査し，走行環境（リザベーション方法，専用通路設置，交差点配置，etc…）と走行速度の関係分析を試みるものである．また，類似交通機関であるBRTについても調査を行って同様の分析を試みる．LRTの速度調査はカールスルーエ，ザールブリュッケン，ストラスブール，フライブルクを対象とし，BRTの速度調査はメス，ナンシー，ストラスブールを対象とした． 本研究の調査結果と昨年度の調査結果を比較することにより，日本の路面電車の走行環境関する改善点を具体的に明らかにすることができると考えられる．

国土計画ではしばしば「多様」が重要概念として取り上げられるが，多様に関する十分な分析は行われていない．本研究では全国的な交流パターンの多様性が地域の長期的発展に与えた影響を分析することを一連の研究の最終目標としつつ，1898年以降の8年次について交流パターンの多様性の長期的変化を計測し，関連する分析を行った． 分析の結果，戦後の高速交通出現初期では都道府県別の交流量と交流先の多様度に明確な関係はなかったが，高速交通の整備が進行するに伴い，交流量が多くて多様度の高い大都市圏，交流量は中程度で多様度の低い地域，交流量が少なくて多様度の大きい地域に分かれることがわかった．また，交流の多様度と就業者の多様度に正の相関があること，交流量と高次産業就業者の多様度にも正の相関があることがわかった．

ドイツでは高速新線NBSの開通にあわせて1991年にICEが運行開始され，在来線の改良区間も活用しながら，現在ではほとんどの主要都市に対してICEのサービスが提供されている．本研究では，ドイツにおける高速新線の建設および幹線鉄道改良に伴う影響などについて分析するため，日本の東海道新幹線開業とほぼ同時期の1963年以降概ね10年ごとに2015年までの6年次について，主要都市間の各種所要時間指標を計測し，その特徴を考察した．その結果，広域的には東西ドイツの統一が都市間の所要時間変化に大きな影響を与えていること，東西ドイツ統一以前は速度向上と運行頻度や乗継ぎ利便性向上がともに行われていたが，近年は運行頻度や乗継ぎ利便性向上が重点的に実施されていることがわかった．

欧州のLRTはトランジットモールでは低速走行，市街地を抜けると高速走行できると紹介されるが，実際にどのような走行環境の時にどのような速度で運転されているのかは明確ではない．一方，日本の路面電車の走行環境を改善するにあたって，欧州のLRTを参考にするならば，具体的にどのような箇所をどのように改善すれば効果的かという分析が必要になるが，国内の走行状態についても詳しい調査が必要である． そこで本研究では国内の路面電車の走行速度をGPSを用いて調査し，走行環境（リザベーション方法，専用通路設置，交差点配置，etc…）と走行速度の関係について分析するものである．将来的には，海外のLRTについても同様の調査と分析を行うことにより，前述のような日本の路面電車の走行環境の改善点の分析を詳しく行うことができる．

エディンバラの LRT は 2014 年開業，全長 14kmで，都心の York Place と郊外の空港を結んでいる.都心部のYork PlaceとHaymarket間の2.6kmが既存の道路空間を再配分して軌道を敷設した区間である.エディンバラの都市交通は従前はバス交通が主体であり，LRT 開業後も多くのバス路線が都心部に乗入れるため，目抜き通りである Princes Street は中央2 車線分を軌道敷，残りの 2 車線をバス・タクシー専用レーンにした LRT とバスの複合トランジットモールとなっている.本研究は，実測調査に基づいた トランジットモールの交通量の実態について報告するほか，周辺の街路と併せて自動車交通と歩行者交通をいかに分離して運用を行っているかについて考察を行い，トランジットモールの運用のあり方についての論点整理を行うものである.

国土計画をはじめ，近年しばしば「多様」が重要な概念として取り上げられるようになったが，それを定量的に計測することは十分に行われていない．そこで，その全国的な交流パターンの多様性が長期的に地域発展に与えてきた影響の分析することを最終的な目標としながら，本研究では全国的な交流パターンの多様性の長期的な変化を計測した． 1898年以降の8年次について期待所要時間（EVTT）を計測し，それをもとに都道府県間交流量や交流可能性量を推計し，量的な面と多様度の面から長期的推移を示した．その結果，交流量の面，交流可能性の面ともに年次を経るにつれて量が拡大するとともに，多様度についても上昇していることがわかった．しかし，近年は交流量，交流可能性ともに量も多様度も伸びが鈍化していることが確認できた．